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in the flight
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正午すぎ、店の扉が開いて振返るとコーヒー豆の配達に来てくれたアスマさんだった。週に三回ほど自家焙煎の豆を届けてくれる。
「よっ。カレー食わせてもらいに来たぜ」
「はい、お待ちしていました」
今日からランチを始める事も知っていて、配達ついでに来てくれたのだ。
カウンターに座ったアスマさんに水を出して準備を始めると、また扉の開く音が聞こえた。カカシさんだ。
「こんにちは」
「奥に行くよ。ランチお願い」
そう言ってカカシさんはいつもの席に座った。カウンターに先客がいたからなんだろう。
「はい。すぐに用意します」今日からランチを始める事も知っていて、配達ついでに来てくれたのだ。
カウンターに座ったアスマさんに水を出して準備を始めると、また扉の開く音が聞こえた。カカシさんだ。
「こんにちは」
「奥に行くよ。ランチお願い」
そう言ってカカシさんはいつもの席に座った。カウンターに先客がいたからなんだろう。
「はい。すぐに用意します」
二人分のカレーとサラダを用意して先にアスマさんに出して、カカシさんの分をトレイに乗せて運んだ。
「お待たせしました。外、暑かったでしょう」
「うん。もうね、じっとしてても汗が出てくる位」
「でもカカシさんって、色白いですよね」
「毎日歩いてるんだけどね・・・ 焼けないみたい。テンゾウだって白いよね」
「僕はあまり外に出ないだけですよ。カカシさんみたいに肌がきれいでもないですし」
「って・・・それ褒められてるのか微妙かも」
「褒めてますって。では、ゆっくりしていって下さいね」
「ありがとう。じゃあ頂きます」
カカシさんは僕を見上げて、にっこりと笑う。
肌だけじゃなくて、顔だってきれいだけど。そんな事はさすがに言えなくて、カウンターに戻ったらアスマさんがもう半分も食べ終わっていた。
「おいしいですか?」
「うまいよ。ほんと器用だよな、テンゾウって。なんでモテねーのか不思議で仕方ねえな」
「・・・いきなり何の話してるんですか」
「優しいし人当たりもいいし、顔だってまぁ悪かねぇのに」
「僕は一人でいいんです。恋人が欲しいなんて思った事も無いですし・・・そもそも誰かを好きになった事も無いかもしれない」
「おいおい・・・そんだけ生きてきてマジかよ。ま、俺で良かったらいつでも付き合ってやるから」
「何度も言ってますけど、僕はそんな趣味ありませんから」
アスマさんの焙煎する豆はすごく好きなのだけど、来る度こんな事を言うのだけは勘弁してほしい。冗談半分で言ってるんだけど、他のお客さんもいるのだから。
「そんな嫌そうな顔しなくたっていいじゃねえか。・・・ごちそーさん、また食べに来るよ」
あっという間に食べ終えたアスマさんが席を立って、コーヒー豆が入った茶袋と勘定を僕に渡した。
「店用のと、お前が好きそうな豆が入ったから一緒に入れてる」
「本当ですか?いつもありがとうございます」
「じゃ、次の配達あるから。またな」
「はい。気をつけて」
いつもこんなふうに豆を入れてくれるんだけど毎回とてもおいしいんだ。
多分アスマさんの焙煎が僕好みだからっていうのもあると思うんだけど。

カウンターの上を片付けてカカシさんを見ると、もう食べ終えてぼんやりと窓の外を眺めていた。
大きなすりガラスを通して入って来る光に髪が反射して、きらきらと光っていてきれいだった。
食べ終えた食器を片付けようと僕が近付いて、ようやく顔をこちらに向けた。
「何か飲まれますか?」
「ん・・・。じゃあコーヒーを」
カカシさんは眠たげな目で店の時計に目を遣ってから、顔を上げずにそう答えた。
時間はまだあるみたいだからカカシさんと話がしたいって思ったけど、今はあんまり話したくないんだろうか。
食器を片付けながら、もしかしたらカレーが美味しくなかったのかも知れないと思ったから、聞いてみる事にした。
「・・・あんまり、美味しくなかったですか?」
すると顔を上げて、違うといった具合に首を横に振る。
「すごく美味しかったよ」
そう言って笑ってくれた事にホッとしたけれど、それ以上は話かけにくい空気で。
「すぐ用意してきます」

カカシさんの様子がおかしい。僕に向かって美味しくなかったなんて言えなくて、ああやって答えてくれたのでは。
入ってきた時は普通に話してくれたのに。
コーヒーを淹れ始めると、またお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませ・・・あ、こんにちは」
「どうも」
店に入ってきたのはイズモだった。
「ランチ始めるって聞いたから」
「アスマさん?」
「そう。行ってやってくれって言われた」
言いながらカウンターに座った。
イズモは駅前のパティスリーでパティシエをしているのだけど、併設されているカフェでアスマさんが焙煎したコーヒーを出しているのがきっかけで、休みの日にたまに来てくれるようになった。
「ありがとう」
「でも今日はコーヒーだけでいい。さっき起きたばかりで、食欲ないんだ」
「わかった」
淹れ終えたカカシさんの分をテーブルまで運ぶ。
相変わらず窓の向こうをぼんやりと眺めたままだ。
「おまたせしました。カカシさん、どうかされたんですか?」
気になって仕方のない僕は、思わず聞いてしまった。
「ごめん、眠いだけなんだ。俺、昼って駄目なんだよね・・・」
「寝るの遅いんですか?」
「そんな事も無いんだけど、昨日ちょっとよく眠れなくて」
カカシさんの顔をよく見れば、確かにうっすら目の下にクマができていた。
「そうでしたか・・・」
「コーヒー飲んだら目も覚めると思う」
「そうですね」
それならあまり話しかけるのも迷惑だと思って、僕はカウンターに戻った。
「そういえばもうすぐ誕生日だっけ」
「ん?うん、そうだけど」
「お祝いにケーキ持ってくるよ。どうせ家にいるんだろ」
「うん、どこにも行かないと思う。人でいっぱいだろうから・・・でも忙しいんじゃないの?」
「まあね、カフェはすごく混むけど自転車ですぐだし」
当日は目の前の公園が花火客でごった返すから、毎年僕の店は定休日になっている。
開ければお客さんが沢山入るのにと言われたりもするけれど、よりにもよって誕生日に蟻のように働くなんて事はごめんだ。
「ありがとう。じゃあ家で待ってるよ」
「分かった。それより店で出すって言ってたケーキはどうなったの」
「まだ試作中。イズモみたいに美味く作れなくてね」
レシピを教えてもらったんだけど、なにか物足りないような気がして納得がいかないんだ。
「誰かに食べてもらった?」
「ううん。あ、昨日焼いたのがあるから持って帰ってよ」
「わかった、食べたらメールする。多分美味いと思うけどね、いつもの事を考えれば」
イズモと話しながら冷蔵庫から昨日焼いたチョコレートケーキを出して、箱に詰めているとカカシさんが席を立った。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございます」
見送ろうとカウンターから出たのだけど、やっぱりカカシさんの様子はおかしいままで。長い前髪のせいで表情もよく見えなかった。
「おいしかったよ。また食べにくるね」
「あ・・・はい。お待ちしています」
「ん。じゃ、また明日」
カカシさんは最後にそう言って、店を出て行った。
明日も来てくれるって言ってくれた事が、僕はとても嬉しくて。良かった。本当に眠いだけだったんだ。
「テンゾウ?」
「え?あ・・・ごめん」
カカシさんが出て行った後、しばらく扉の前でぼんやりしてしまった僕を不思議そうな顔で見ている。
「常連の人?」
「そう。いつもは毎朝来てくれるんだけどね、ランチを食べに来てくれたんだ」
言いながらカカシさんの席の片付けをして。
カカシさんがずっと見ていた窓の外を見てみたけれど、やっぱり特に変わった様子はなかった。
「嬉しそうな顔してる」
「え?」
「いや・・・なんでもない。じゃあ俺もそろそろ行くし。またメールする」
「ありがとう」
詰め終えたケーキの箱を渡して、イズモを見送った。
嬉しそうな顔してるって・・・そんなに顔に出ているんだろうか。
よく、何を考えてるのか分からないって言われるのに・・・。カカシさんの事になると僕はおかしいっていうのは分かっているんだけど。


そして、その次の日からカカシさんが店に来なくなってしまった。
また明日って言ってくれたのに、もう一週間が経ってしまった。毎日溜め息ばかり付いているせいで、配達に来たアスマさんに呆れられてしまった。
「お前な・・・仮にも店の主人が、そんな辛気くさい顔するもんじゃねぇよ」
「あの、アスマさん」
「ああ?」
苦虫を噛み潰したかのような顔で僕を見ているけれど、そんな事すらも気にならない位にカカシさんの事で頭がいっぱいだった。
「僕、ずっと他人に興味があまり沸かないって前に言ったと思うんです。でも今は、ある人の事で頭がいっぱいなんです。その人の事をもっと知りたいとか話したいとか思ってて。こんな事って初めてで、よく分からないんですけど・・・でも、その人と毎日会っていたのに、急に会えなくなってしまって・・・」
「・・・それで、その溜め息か」
「はい、まぁ」
「なんで会えなくなったんだ?」
「それが、よく分からないから悩んでいるんです。本当に急に会えなくなってしまったんで」
あの日、体調が悪そうだったから倒れたのかもしれないとか思うと心配で仕方ない。
「で・・・だな。もう言ったのか?」
「何をです?」
何の事か分からず聞き返すと、アスマさんも怪訝な顔をした。
「好きなんだろ?」
「好き・・・って、いやいや。違いますよ・・・!」
カカシさんは男性であって、そんなまさか。
「好きじゃなかったら何なんだ」
だけど。僕はカカシさんの事を好きなんだと考えたら、今までの僕の感情の変化だって納得がいく。
それに・・・アスマさんに言われて否定したけれど、カカシさんが好きだという言葉はすごく自分の中でしっくりと馴染んでいる事に気が付いた。
「・・・男の人なんです」
「別にいいじゃねえか」
「全く。家の場所はなんとなく分かるのですが、会いに行くのも・・・。実は、お客さんなんです。だから、どうして来てくれなくなったのかなんて聞けないじゃないですか」
「行くか行かないかは自分で決めろ。で、早くその辛気くさい面をどうにかしてくれ」


カカシさんに会いたい。だけど、会ってどうしたらいいのか。
好きだなんて伝える訳にもいかないのに。
部屋の窓から公園を眺める。この木々の向こう側に行けばカカシさんに会えるかもしれないって、何度思った事だろう。
カカシさんの事が好きだってようやく気付いたせいで、余計に会いづらくなってしまった。
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