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in the flight
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朝、遠くのほうから聞こえて来る物音で目を覚ました。
体が重い・・・。ふと隣を見ると、一緒に寝ていたはずのカカシさんがいない。ということは、この物音はカカシさんかと起きあがった。
台所に行ってみると、何やら料理を作っているらしいカカシさんが立っていた。
味噌汁のいい匂いが漂ってくる。
「おはようございます」
「おはよう。もう起きちゃったの」
カカシさんに言われて時計を見れば六時過ぎ。大体いつも起きる時間と変わりはないのだけど、逆にカカシさんはいつもまだ寝ている時間だ。
「早起きして、どうしたんですか?」
「たまには俺も作ろうと思って。いつも悪いし」
そう言うんだけど、顔はいつも以上に眠たそうだ。
「いいんですよ、僕が作りたいだけなんですから。それより、体は大丈夫なんですか。昨日無理させてしまって・・・」
「んー・・・ま、大丈夫。今日は仕事昼からだし、打ち合わせがあるだけみたいだから。テンゾウは休みでしょ、今日」
「はい。・・・あ、何か手伝いますよ」
「いいよ、もうほとんど終わってる。顔でも洗って、たまにはゆっくりしててちょうだい」
そう言ってニッコリと微笑むから、素直に甘えておこうと思った。
「わかりました。楽しみにしてますね」
「不味くても、文句は無しな」
「カカシさんが作ってくれたのに、文句なんて言うはずないですよ」
カカシさんの料理なんて初めてだから、本当に嬉しい。
洗面所で顔を洗って、髭を剃って。部屋に戻ればテーブルの上に美味しそうな朝食が並べられていた。
「あぁ・・・なんか幸せです、僕」
思わずそう言ってしまう位に嬉しいと思った。
「ずっと一人だったし、そもそも祖父と一緒に住んでいた時も僕が全部食事の用意をしていたので。こんなふうに朝食が並んでるのって、すごく嬉しいです」
言いながらテーブルの前に腰を降ろしたら、反対側にカカシさんが座った。
「そ?じゃ、俺もたまに作るし」
「でも無理しなくていいですからね。でも、本当に体大丈夫なんですか」
「・・・その、何度も言わなくていいから。ほら、早く食べよう」
カカシさんは顔を紅潮させて、慌てた様子で目の前の箸を持ち上げた。
「はは。そうですね。じゃ、いただきます」
「いただきます」
どうして人に作ってもらった食事って、こんなに美味しいんだろう。好きな人に作ってもらうのなら尚更。
「あ、そうだカカシさん。昨日のお願いの話なんですけど、もうひとつのお願いって、何だったんですか?」
ふたつあって悩んでるって言っていたから、ずっと気になっていたんだけど。
「いや、もういいんだ」
「いいんですか?カカシさんのお願いだったら、何でも聞きますよ。僕」
僕の顔をじっと見つめていたカカシさんは、視線を落として頭を振った。表情が少し暗い。
「教えて下さい。気になります」
「そんなに対した事じゃないんだ。ただ、やっぱり誕生日のお祝いをしたいと思ってただけ」
「あぁ・・・その事だったんですか」
「しつこく言ってごめんね。テンゾウだって付き合いがあるんだし、次の日とか会えるのなら俺はそれでいいし・・・」
言い終えてカカシさんは、箸を置いた。
「僕はカカシさんの体が心配なんです。でも、それでも来てくれるのなら友達は断ります。まだ誘われてないですし」
「・・・本当?」
「はい」
それでもカカシさんの顔は釈然としなかった。何を一体そこまで気にしているんだろうか。カカシさんは立ち上がって僕の机の上からハガキのようなものを持って来る。
ハガキの送り主はシズネで、祖父と一緒に田舎に引っ越したのだ。内容は、夏に帰省するから会いに行くという事。花火大会も楽しみだとか、書いてあったような気もする。
「じゃあ・・・これは?これ、誰なの」
シズネの事を説明するのは難しい。血は繋がっていないけれど、幼い頃から一緒に住んでいて。そもそも、祖父というのも僕とは血が繋がっていなくて。だから兄弟でも無いし。
身寄りのない僕とシズネを引き取って育ててくれたのだ。
多分シズネを可愛がっている綱手さんと一緒に遊びに来るんだろう。綱手さんというのは祖父の孫に当たる人で、情は深いのだけど少し乱暴で酒癖も悪く。よくあの大人しいシズネが懐いたなとは思う。(実際、よく綱手さんに使いっ走りにされていたけど、今はどうなんだろう)
「俺に言えないような人?」
「え?」
何て説明しようかと考えていたから、カカシさんの問いかけが聞こえなかった。
「・・・用事、思い出したから帰る。ちなみに今日の夜も明日もずっとずっと忙しいからね、俺。当分来れないから」
ただならぬ言い草に驚いて顔を上げると、カカシさんはもう鞄を持ち上げて階段へと向かっていた。マズい、カカシさん勘違いしてる。
「カカシさん、待って下さい・・・っ」
僕もようやく慌ててカカシさんの後を追いかけた。カカシさんは一階に降りた後、走って裏の玄関を飛び出そうとしている。
「カカシさん・・・!」
急いで僕も玄関を飛び出すと、カカシさんの姿が公園の中に消えて行ってしまった。
そのまま追いかけようとして踏み出した瞬間、足に鋭い痛みが走った。裸足で出てきてしまったのが失敗だったらしく、何かを踏んづけてしまったらしい。
痛いと思って足を見てみれば、砂に混じっていたらしい貝殻のかけらが足の裏に刺さっている。貝殻を抜くと、鈍い痛みと共に大量の血が溢れ出してきた。足というのは体の一番下にあるせいなのか、大した怪我では無いはずなのに気が付けば地面にポタポタと血が滴り落ちている。
今すぐにでもカカシさんを追いかけたいのだけど・・・。
しばらく店の横の庭で呆然と立ち尽くしていたら、見慣れた人物が自転車で通りかかった。アスマさんだ。今から配達に回るのかな。にしては少し早いけれど。
なんて事を考えていたら、そのアスマさんが戻ってきてしまった。
「そんなとこ突っ立って何やって・・・って、お前それ・・・!」
自転車を店の前に止めた後、僕の姿を見て慌てて駆け寄ってきた。
「いや、なんか貝殻が落ちてて足に刺さったんです」
「刺さったんですってお前な。うわ・・・ひでーなこれ。ちょっと待ってろ、タオル取ってくるから。勝手に上がるぞ」
そう言ったアスマさんは僕の返事も聞かず、勝手に家の中に入っていってしまった。
タオルの場所分かるかな。
片足を上げたまま立っているのが辛くなってきてその場に腰を降ろすと、タオルと救急箱を持ったアスマさんがすぐに戻ってきた。
「よく置いてある所、分かりましたね」
「店で前使っていたの見てたからな」
「なるほど」
その救急箱から消毒液を出して、なんの前触れも無しに液体をかけられて思わず変な声を上げてしまった。
「ちょ・・・アスマさん、痛い・・・です」
「仕方ないだろ、我慢しろ。あー・・・でもこれ、病院行ったほうがいいかもな。結構深いし、貝殻はもろいから崩れて中に残ってしまったら厄介だぞ」
確かに。さすがに自分で傷口の中を抉り返すような度胸は、残念だけど僕には無い。
「分かりました。病院、近いんで行ってみます」
すぐそこに木ノ葉病院という大きな病院があって、救急外来もやっているから今の時間に行っても大丈夫だろう。ちなみに綱手さんはずっとそこで医者をやっていたんだけど、祖父が田舎に引っ越すのを切欠にそこをやめて、田舎で小さい診療院を開いた。
かなり腕利きの医者だったから田舎でなんて勿体ないと、回りには説得されたのだけど頑固な性格だからな・・・あの人は。
「連れてってやるよ、歩けねぇだろ」
「すみません・・・じゃあお願いします。保険証とか取って来ますので、待っててもらえますか?」
「あぁ。てか、ついてってやるって」
そう言ってアスマさんは、僕の腕を掴んで自分の肩に担いだ。
「ありがとうございます」
「おんぶしてやってもいいんだけどな」
「いえ、それは結構です」
さすがにおんぶなんて、恥ずかし過ぎる。アスマさんには階段の下で待っててもらって、服を着替えて鞄の中に財布と保険証を入れた。
カカシさんが作ってくれた朝食が二人分、中途半端にテーブルの上に残ったままだった。それを見て深い溜め息を吐く。
どうやって誤解を解いたらいいのだろう。シズネはそんなんじゃ全くないっていうのに。
「それにしてもお前がそんな格好で外に飛び出すなんて、何事だ?」
「・・・あの人と、喧嘩してしまいました。いや、喧嘩って言わないですね。勘違いして僕の話も聞かずに出て行ったのを追いかけたのですが・・・」
カカシさんの悪い所があるとするなら、まずそこかもしれない。なんでも自分一人で解決しようとするところと、僕の話を聞かないところ。
「やっぱりな。俺、公園通って来たんだけどよ。あいつが店の方から走って来たかと思ったら、立ち止まって店の方を振返ってたんだ。知り合いでもないから声はかけなかったけど・・・そうだな。お前と家から出て来た時には、もういなかった」
「・・・そうですか」
その時アスマさんが教えてくれていれば・・・僕はどうしただろう。
「まぁ・・・追いかけて欲しかったんじゃねえの」
「・・・はい」
「とにかく病院行って、それから考えろ。そんな足じゃ店も開けられないかも知れないしな」

病院から家まで送ってくれたアスマさんに礼を言って、僕は溜め息を吐いた。
結局足の怪我は全治三週間。思った以上に傷口が深く、二針ほど縫ったせいだと思う。必要以上だと思うぐらいに包帯でぐるぐる巻かれてしまって、これでは仕事なんてとてもじゃないけど出来ない。
店を始めてから、そういえばまとまった休みを取るのは初めてのような気がする。
手書きで『しばらく休みます』とだけ紙に書いて、店の扉に貼付けた。なんていうか・・・情けないとしか言いようがない。

カカシさんの事だけが気がかりで、教えてもらった携帯電話の番号にかけてみても出てくれない。誤解している上に、追いかけなかった僕の事を怒っているのは当然の事のように思えた。一言だけでも否定していれば、違ったのかもしれない。
メールをしたくても、カカシさんがメールはしないとか言って番号しか教えてくれなかったのだ。
カカシさんから会いに来てくれればいいのだけど、多分来てくれないんだろうな。
だとすると、僕から会いに行くしかない。かといって仕事場まで押し掛けるなんて、迷惑になってしまう。前みたいに公園でばったり会えるかな。


それからしばらく僕は怪我をした足を引き摺りながら毎朝公園の中を歩いた。カカシさんが散歩するとするならば店に来る時間帯の筈だからと、良い歳して半ズボンを履いて。
先日イズモが見舞いに来てくれた時に友達だか誰かのお古だとか言って、一緒に持ってきてくれたのだ。包帯を巻いているせいで、僕がいつも履いているようなパンツは着替えの時に大変だからと。
今日もいなかった・・・。片足を庇いながら歩くのはとても疲れる。前にカカシさんが座っていた池の傍のベンチに腰を降ろして包帯を巻いた足を見ると、うっすら血が滲んでいた。鎮痛剤は飲んだけれど、それでもズキズキと傷口が傷む。
一体僕はどうしたらと頭を抱えていたら、少し離れた池の橋の向こうから歩いてくるカカシさんを見つけた。
反射的に僕は立ち上がったけれど、カカシさんは知らない人と一緒だった。黒髪のおかっぱ頭の男と並んで歩いている様子を見て、胸の奥がジリジリと傷む。
カカシさんには会いたかったけれど。こんな形で会うなんて事は予想していなかったから、僕はそこに立ち尽くしてしまった。このままここにいたら見つかってしまう。
だけどこの足じゃ、隠れる事もできなくて。どんどんとカカシさんが、こっちに向かって歩いて来ている。
泣きたいような気持ちでカカシさんを見ていたら、カカシさんも僕に気付いた様子で驚いた表情をした。声をかけるべきなんだろうか。だけど普通に会話できる自信が無い。
カカシさんは僕の足元を見ていたけれど、その後すぐに視線を逸らしてそのまま歩いて行ってしまった。


後ろ姿をしばらく見送っていると、その男がカカシさんの肩に腕を回した。ちょっといくらなんでも親密すぎないか。カカシさんの事だからきっと何とも思ってないのだろうけど、それを見ている僕はやっぱり気が気じゃなくない。
はぁ・・・。もう僕の事なんて、どうでも良くなってしまったのだろうか。もう帰ろう。
傷む足を引き摺りながら歩いていると、後ろから聞き覚えのある女性の声で名前を呼ばれて振返った。
「やっぱりテンゾウ。こんな所で何してるの・・・わ、足!」
大きな荷物とペットの豚のトントンを抱えたシズネが、驚いた顔で近付いてきた。
「ちょっと怪我してね。しばらく店も出来そうにないから、休んでるんだ」
「休んでるって、家でじっとしておかなきゃ駄目でしょ!」
「・・・ごめんなさい」
普段は大人しいのだけど、ちょっとした切欠で豹変してしまうのは綱手さんの影響としか思えない。
「ちょうど家に行こうと思ってた所だったの。着いたら見てあげるから」
シズネも綱手さんと同じ医者なのだ。そういえば綱手さんはどうしたんだろう。
「綱手さんは?」
「早速、駅前の居酒屋で飲んでるよ」
「なるほど。相変わらずだね・・・」



家に着いてから早速、足の処置をしてもらって。それから祖父の話とか色んな話をした。
「それで、明日の花火なんだけどね」
「あ、ごめん・・・ちょっとね、明日は大事な人が来る事になっているから駄目なんだ」
「えっ。何、彼女でも出来たの」
彼女じゃないんだけど、面倒になりそうだから説明はしないでおこう。
「そういうんじゃないけど、そういう訳だから明日は別の所で・・・」
「うん。明日はね、木ノ葉病院の屋上で見る事になったって言おうと思ってたんだけど」
「そうだったんだ」
「うん。でも、安心した。テンゾウに大事な人ができて」
そう言ってシズネは嬉しそうに笑った。

シズネにはああ言ってしまったけれど。もう本当に駄目かもしれない。シズネが帰った後、何度も電話をかけてみたけれどカカシさんは出てくれなかった。
明日の準備で忙しいとは思うのだけど、電話ぐらい取ってくれたっていい筈。


結局眠れずに朝を迎えてしまった。
店を開けていなければ人と会って話す事もない生活にも慣れてきてしまっている。ただぽっかり穴が空いたような感覚なのは、カカシさんがいないからであって。これだけは、どうしようもない。
お昼すぎ、家のチャイムが鳴った。インターフォンの受話器を取ると、イズモの声がした。なんの用事だろうと階段を降りて玄関の扉を開けば、紙袋を手渡された。
「・・・何か貸してたっけ」
するとイズモは少しムッとしたような顔をする。
「誕生日プレゼント。ケーキ持って来るって言ってただろ」
「あ・・・忘れてた」
本当にすっかり忘れてしまっていた。今日は自分の誕生日でもあるのだ。
「・・・二人分だから」
「いや、でも・・・」
イズモはカカシさんとの事を知っていて(ていうか気付かれてしまった)だから僕の今の状況も知っている訳で。だから二人分の意味が分からない。
「じゃ、店忙しいから」
「え、あ。ちょっと待って・・・って」
僕の問いかけも虚しく、イズモは渡すだけ渡して行ってしまった。
溜め息を吐きながら部屋に戻り、とりあえずケーキを冷蔵庫に入れた。こんなのあったって寂しいだけのような気がする。いっその事一人で全部食べてしまおうかと思ったけれど、気持ち悪くなりそうだからやめた。


 
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