忍者ブログ
in the flight
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。







今日は店の定休日。
いつもなら家の用事をして、何も無ければ一日中を自分の家の中だけで過ごすのだけど。
もしかしたらカカシさんに会えるかもしれないと、公園の中を歩いてみる事にした。
店の仕込みをしながら思い立った僕は中途半端な所で作業を切り上げて、家の外に出る。
「暑いなぁ・・・」
思わず口に出してしまうほどの暑さだった。
昼に外なんか出るもんじゃないと後悔はしたけれど、きっと公園に入ってしまえば幾分かは涼しいはず。
散歩なんて久しぶりだ。毎日見ているけれど、公園の中も本当に久しぶりだ。
夏らしく蝉の鳴き声がとてもうるさい。
蝉はなんであんな声で鳴くんだろう?どうせ鳴くのなら鳥のように、きれいな声で鳴くべきだと思う。それとも人を不快にさせようとして鳴いているのかもしれない。
そんな蝉の事について考え込みながら、どんどんと公園の中を歩いていく。まだ店からはさほど歩いてはいない。記憶によれば反対側に行くまで、距離はまだまだあったような気がする。
こんな距離を毎朝、往復してまで来てくれていたなんて本当に驚かされる。本当に散歩が好きなんだなぁ、カカシさんって。
もう少し歩けば池が見えてくるはずだ。それは公園の中とは思えないほどの大きなため池で、毎年行われる花火大会の打ち上げ会場にもなっている。
だんだんと見えてきた水面にはボートが一、二隻浮かんでいた。こんな季節にボートに乗るような人はさすがに少ない。春や秋は、花見や紅葉を楽しむ人達が沢山訪れる場所でもあるのだけれど。
真夏の太陽をいっぱいに受けて、水面は眩しいぐらいに輝いていた。空を見上げると真っ青の空と、入道雲。
僕の家の回りも木々に囲まれているせいで屋上に出た時ぐらいしか見れないから、とても新鮮に思える。
これはこれで気持ちいいかもしれない。

池の回りは遊歩道になっていて、その木陰にぽつぽつとベンチが置かれている。
さすがにこうも暑いと座っている人はほとんどいない、と歩みを進めていると、その先に見覚えのある人がベンチに座ってぼんやり空を見上げていた。
カカシさんだ。
心臓の音が段々と早くなってきて、僕は一旦足を止める。
ずっと会いたかったのに。あの人に会いたいから、こうやって公園の中を歩いている訳なのに。なかなか足を踏み出せない。今行かなきゃどうするんだと、なんども自分に言い聞かせる。
すると、不意にカカシさんがこちらを振返って僕を見つめて固まった。
ちょっと気まずいかもしれない。
僕がゆっくりと近付くと、同じように気まずそうな顔でカカシさんは笑った。
「こんにちは。・・・散歩ですか?」
「うん。テンゾウも?」
珍しいねっていう感じでカカシさんは答えて、視線を目の前の池に向けた。
「なんとなく・・・散歩したくなって。気持ちいいですね」
「うん。散歩はいいよ」
カカシさんの顔を見ていられなくなって、僕も視線をカカシさんと同じ方向に向けたら、ちょうど貸しボートの受付所が目の前にあった。
「さすがに、こうも暑いと乗る人少ないんですね」
「そりゃそうでしょ。日陰も何にもないし。日焼けしたいなら別だけど」
「・・・乗った事あります?」
「無い無い」
僕はしばらく考えてみる。
カカシさんをボートに誘いたくなってしまったのだ。誘ったら断られるのは分かっているけれど、どうしても一緒に乗りたい。
「カカシさん」
「んー?」
「僕、乗ってみたいんです」
「・・・そうなんだ」
「あの・・・せっかくですし、一緒に乗りませんか」
思い切ってカカシさんを見つめて話してみた。案の定、カカシさんは凄く驚いた顔をしている。
「や、せっかくって、意味がわからない」
首を横に振るカカシさんの手首をぎゅっと掴む。
「天気もいいですし。きっと気持ちいいはずです。早く行きましょう」
「え、あ・・・ちょっ・・・」
怒られたら我慢しようと思ったのだけど。
カカシさんは文句を言いながらも、一緒に乗ってくれるみたいだ。
受付所で手続きを済ませてボートを選ぶのだけど、白鳥のボートがあって。これなら日も避けれるし、ペダルを漕ぐだけだから楽だよ。・・・と、受付のおじさんに勧められるまま、白鳥のボートに乗る事になってしまった。
よく考えたら普通のボートだと向かい合って座らないといけないから、きっと僕は緊張してしまうだろうし、それなら見た目は恥ずかしいけれど、こっちにして良かったかなとか思って。
先にボートに乗り込んでカカシさんに手を差し伸ばすと、少し躊躇ったあとに僕の手を掴んで乗り込んできた。こんなに暑いのに、カカシさんの手はひんやりと冷たかった。
「恥ずかしいんだけど」
ぽつりと言ったカカシさんは、見間違いかもしれないけれど頬が赤く染まっていた。
「大丈夫ですよ。乗っていたら、外側がどうとか分かりませんし」
「だいたい俺は乗るなんて一言も言ってないからな」
ムキになって言う口調も、とてもかわいく思えてしまって。
やっぱり僕はカカシさんが好きなんだと、改めて実感をしてしまった。
「テンゾウ、漕いでる?俺ばっか漕いでる気がするんだけど」
「漕いでますよー。あ、僕あっちに行きたいです。あのへん、木陰になっていません?」
僕が指差した場所を見たカカシさんは、げんなりとした表情を浮かべた。
「え、あんな所まで行くの?嫌だよ、疲れる」
確かに距離はかなりあるけれど、僕は長い時間カカシさんと二人きりでいたいから。わざと言ってみたっていう下心もあったりする。
「じゃあ僕が漕ぎますから、寝ててもいいですよ」
「何それ。一緒に乗った意味ないでしょ」
そう言ってカカシさんは溜め息を吐いて、一緒にペダルを漕いでくれた。ボートが進むと水面に波ができて、どんどんと見えない所まで広がって行く。
波に太陽の光が当たってキラキラと光っている。まるで僕の心の中を見ているようだった。
好きだと言わなくても、こうやって一緒にいられたらどんなに良いだろう。
恋人にならなくてもいい。カカシさんが好きだ。
池の一番端まで来るとやっぱり日陰になっていて、ひんやりと冷たい空気が流れてきた。
「この上、普段は入れない所なんだ。公園の管理施設があってね、花火の打ち合わせで何度か入った事があるんだけど珍しい植物とかいっぱい植えてあって、きれいなんだよ」
「植物好きなんですか?」
「まぁほどほどにね。テンゾウも好きかなと思って。いつも店のテーブルに飾ってる植物、この辺じゃ見かけないものだし」
毎朝取り替えている花を、ちゃんと見ていてくれたんだ。
「好きですよ。あれは祖父の家に行った時に分けてもらったんです。裏庭に、薬草になるものとか料理に使えるハーブも育ててるんですよ」
今度よかったら見に来て下さいって言いかけて、口をつぐんだ。
カカシさんはもう一週間も店に来ていないのだ。そんな催促するような事は言うべきじゃない。
「今日って定休日だよね」
「え・・・あ、はい」
「テンゾウの淹れたコーヒーが飲みたいんだけど、駄目かな」
驚いてカカシさんを見ると、髪をぽりぽりと掻いてそっぽを向いているから表情が分からない。
「駄目じゃないですけど・・・」
「ごめんね、ちょっと最近忙しくて行けなくなってて。でも、そろそろテンゾウのコーヒー飲まないと禁断症状が出そうでさ。考えたら俺、毎日ずっと通ってたから飲まないと仕事する気も起きなくて。すっきりしないっていうかさ。自分で淹れても、なんか違うし」
うわ・・・どうしよう。すごく嬉しい事をカカシさんが話してくれている。
僕は自分が何かしたんじゃないかって心配だったけれど、まさかカカシさんはこんな風に思ってくれていたなんて。
「いいですよ。カカシさんなら、いつでも来て下さい」
休みの日だって、夜中だって。カカシさんならいつだって歓迎する。
「・・・うん。ありがとう」
そういえば今日は休みなんだろうか?
「仕事は大丈夫ですか?」
「平気。働く時はちゃんと働いてるよ、俺」
って、普段はじゃあサボってるのか。そうだよな。朝だって結構ゆっくりしていたし。
「そのお陰で今日は会えたので良かったです。じゃあ行きましょうか」
「・・・ん」
二人でゆっくりゆっくりボートを漕いで。
こんな風に笑い合ったりするのは恋人同士みたいだ。だから僕はきっとカカシさんに告白なんてする事は無いと思う。今で充分すぎるほど、幸せだと思うから。
PR
PREV       NEXT
1 2 3 4 5 6 7
フリーエリア
忍者ブログ [PR]
"aika" WROTE ALL ARTICLES.
PRODUCED BY SHINOBI.JP
SAMURAI FACTORY INC.